第五章 権力闘争

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インセンティブ 【賞で相手をコントロールする】

賞によるコントロールとは、相手に賞(相手が欲しがるもの)を与えることによって、相手が自分にとって望ましい行動をとるようにしむける方法です。賞に効き目をもたせるには、次の三条件が常に満たされていなければなりません。

1.相手がこちらに服従する(こちらの求めるように行動する)ほどに強く、何かを欲しがっていなければならない。あるいは必要としていなければならない。

2.こちらが提供する賞が、相手にとって何らかの欲求を満足され得ると、相手が思えるものでなければならない。

3.その賞を手に入れるために、相手がこちらに依存していなければならない(相手が自分で、その欲求を満たす能力がない)。

例を見てみましょう。

(上司が部下に)「君たちが頑張って利益をだしてくれたら、ボーナスをたくさんあげよう。」

(役人が業者に)「OBの天下り先を引き受けてくれたら、君の会社に仕事を任せてあげるよ。」(ワイロも賞の一種です。

(親が子に)「テストで百点を取ったら、一万円をあげよう。」

(市民が政治家に)「高齢者福祉を手厚くしてくれるなら、あなたに投票しよう。」

企業が一時期こぞって導入した「成果主義」も、賞の力を使った動機付けの方法です。有権者が選挙投票で政党や政策を評価する行動も、政治家に対して賞の力を使っていると言えます。その他に、政治献金というものも賞の力で政治に影響を与える方法だと言えます。

例えば、日本経団連は各政党の政策を評価して、それを基に政治献金額を決めています。平成19年の経団連の政治献金額は29億9000万円で、うち29億1000万円が自民党向けで、残りが他の政党向けでした。自民党への献金額が多い理由は、自民党が日本経団連が高く評価する政策を提示(又は実施)して来たためです。

例えば、日本共産党は企業献金の受取を拒否しており、党の運営費は、党費と機関紙「しんぶん赤旗」の収益が主となっています。これは共産党が労働者に有利な政策を主張しているゆえに成り立っている仕組みです。

■全国の政党や政治団体が2007年に集めた政治資金の総額は2866億円で、その内訳は以下の通りです。
・個人献金 440億万円。
・企業・団体献金 139億万円。
・パーティー収入を中心とする事業収入 619億万円。
 ―献金総額 979億万円―
・そのほかの収入は、党費や借入金などです。
情報源はここ。)

党費とは、全国に200万人ほどいる各政党の党員が支払う年額数千円の運営費のことです。(詳しくはここ。)
パーティー収入とは、政治団体が開催する政治資金パーティーの売上げのことです。誰がパーティー券を買っているのかはよくわかりません

さて、政治の上でよく利害が対立してしまう「企業」と「労働者」ですが、両者がどれほど賞の力を持っているかを分析してみましょう。

・企業が一年間に使えるお金をどれくらい持っているか調べてみました。平成19年度の法人の所得総額は55兆2,871億円です。(情報源はここ。)
・対して、平成19年中に民間企業が労働者に支払った給与の総額は201兆2,722 億円です。(情報源はここ。)ここから税金や保険料、最低限度の生活費を差し引いた金額が、労働者が一年間に自由に使えるお金です。

仮に、日本の労働者5,377万人が毎年一万円ずつ献金したら、総額5,377億円になりますね。しかし、自分だけが献金をして他人は一円も払っていなかったら、自分が払ったお金は無駄になりそうです。こういった計画を実現するためには、陣頭指揮をとって仲間を団結させるリーダーが必要です。その点、企業には日本経団連というリーダーがいるので団結力は強そうです。

★賞はこちらが望む成果が達成されたときに渡すのが効果的です。例えば、イギリスの職業訓練所では、生徒が就職した時点をもって訓練所に助成金を交付する仕組みになっています。これにより、訓練所は企業の需要に合う職業訓練を行うようになりました。

★賞は子どもの教育に効果があるか?
多くの大人は賞を巧みに使って子どもをしつけようとするはずです。しかし、賞への依存には副作用があります。別のページで、教育に賞を用いた場合の副作用について記してあります。この副作用は大人にも表れることがあります。

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目次
■ 権力闘争 【決定権者は誰?】
◇ インセンティブ 【賞で相手をコントロールする】
◇ インセンティブ 【罰で相手をコントロールする】
◇ インセンティブ 【罰で相手をコントロールする その2】
◇ 権力闘争 【分断して統治せよ】
◇ 民主主義政治とは 【政治家の選び方】
◇ 権力闘争 【本音と建前】


本章で解説するインセンティブについては、梶井厚志氏の『戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する』にも記載されています。

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