前項の質問の仕方はやや面倒くさいと思うので、もっと簡単なやり方を示しておきます。主張文を読みながら、「なぜ?」という問いを頭の中で繰り返して論理飛躍を見つける方法です。前章とこの章で解説した前提の数々を意識しながら考えてください。
◇前提の種類についてのおさらい。
●根拠・・・結論を支える根拠はある? 根拠を支える根拠はある?
●事実・・・根拠を裏付ける統計などの事実資料はある? 出典はどこ?
●5つの隠れた前提
1.事実に関する前提・・・大前提が隠れていない?
2.価値判断に関する前提・・・書き手の価値観が隠れていない?
3.言葉の定義に関する前提・・・その言葉はどういう意味で使っているの?
4.視点に関する前提・・・それは誰の視点から見た"正しい結論"?
5.基準に関する前提・・・評価の基準は?
●つながり・・・前提と結論は正しくつながっている? 論理の欠陥はない?
では、例題文を使って練習してみましょう。メモ帳を起動してください。
次の文章を読みながら、頭の中で「根拠は?」「資料は?」「出典は?」「定義は?」と連呼しながら、論理飛躍(欠けた前提)を探して、質問を考えてください。考えた質問をメモして答え合わせをしてください。
| これは、この問題がどういうものかを掴むための練習だと思ってください。 【問題】 (『アドラー博士の子どもを賢く育てるアドバイス60』より引用) 「以前私は別の本で、親が子供に言ってはいけない三大禁句として、「だめ」「早くしなさい」「がんばりなさい」の三つの言葉を上げたことがあります。この三つの言葉が全部命令口調になっていることにお気づきでしょうか?命令口調で育てられた子供はロボットやワープロと同じですから、命令以上のことができなくなります。"指示待ち族"という言葉が流行ったことがありますが、指示が無ければ何も出来ない、指示された以外のことには気が回まわらない。不測の事態が起きたら立ち往生してしまう子供が増えているのは、命令で育った子供が増えているからではないでしょうか?」 (ヒント! 全部で03個の質問ができます。) 【答え】(↓をマウスでドラッグしてください。太字の部分が答えです。) 「以前私は別の本で、親が子供に言ってはいけない三大禁句として、「だめ」「早くしなさい」「がんばりなさい」の三つの言葉を上げたことがあります。この三つの言葉が全部命令口調になっていることにお気づきでしょうか?命令口調で育てられた子供はロボットやワープロと同じですから、命令以上のことができなくなります。(なぜ?命令で育てられた子が、命令以上の事ができなくなると言える根拠は何?)"指示待ち族"という言葉が流行ったことがありますが、指示が無ければ何も出来ない、指示された以外のことには気が回まわらない。不測の事態が起きたら立ち往生してしまう子供が増えている(なぜ?指示以外の事や不測の事態に対処できない子供が増えていることを裏付ける資料はどこにあるの?)のは、命令で育った子供が増えているからではないでしょうか?(なぜ?命令で育った子供が増えていることを裏付ける資料はどこにあるの?)」 |
いくつ発見できましたか? こういう感じで論理飛躍を見つけて、質問を考えます。実際の議論では質問の代わりに反論をしてもよいのですが、今回は質問のみで答えてください。
あと二問あります。
| 【問題】(『アドラー博士の子どもを賢く育てるアドバイス60』より引用) 「命令で育った子どもは賢い子どもにはなりません。子どもに何かやってほしいときは、頼む、依頼するという形でやってほしいと思います。中でも親の手伝いをさせることは、子どもを賢くするうえで極めて重要な事です。何かの統計によれば十年くらい前の子どもの手伝い度を十とすれば、最近の子どもは二くらいだと言います。このように家の手伝いをする子どもが減っているということは、家族の営みに子どもが参加していないということになります。それだけ他者との関係が希薄になっているということです。迷惑をかけないで一人で遊んでくれればいいとか、勉強だけしていてくれればいいという発想が親の側にあるのでしょう。」 (ヒント! 全部で12個の質問ができます。) 【答え】 「命令で育った子どもは賢い子ども(なに?賢い子どもの定義は何?)にはなりません。(なぜ?命令で育つと賢い子どもにならないと言える根拠は何?)子どもに何かやってほしいときは、頼む、依頼するという形でやってほしいと思います。(なぜ依頼する形でやるの?賢くなるから?その根拠は何?)中でも親の手伝いをさせることは、子どもを賢くするうえで極めて重要な事です。(なぜ?子供を賢くする上で重要だと言える根拠は何?)何かの統計によれば(なぜ?『何かの統計』と出典が曖昧になってるけど、出典はどこ?)十年くらい(なぜ?数字が十年『くらい』と曖昧な理由は?)前の子どもの手伝い度を十とすれば(数値の定義は?何を基準に、どのような計算式で十という数値を算出したの? 『前の子ども』とは具体的にいつの子供のこと? サンプルは何人で、どうやって選んだの?)、最近の子どもは二くらいだと言います。(『最近の子供』とは具体的にいつの子供のこと?)このように家の手伝いをする子どもが減っているということは、家族の営みに子どもが参加していないということになります。それだけ他者との関係が希薄になっているということです。(なぜ?本当に家族の営みへの参加機会の減少が、人間関係全体の希薄化に直結している?減った分を他所で補っている可能性はない?)迷惑をかけないで一人で遊んでくれればいいとか、勉強だけしていてくれればいいという発想が親の側にあるのでしょう。(なぜ?親にそのような発想があるという根拠は?)」 |
いくつ発見できましたか?
ここまで並べ立てると多少、嫌味に感じるかもしれませんね。しかしこれは決して嫌味を言うための手法ではありません。さて、最後の問題です。
| 【問題】 (日刊スポーツの記事を一部引用。) 『麻生首相逆ギレ、ホテルでの飲食「安い」 夜の会合で、都内高級ホテルのバーを頻繁に利用している麻生太郎首相(68)が22日、「ホテルのバーは安い」と、セレブ感覚全開で発言した。番記者に「庶民感覚とかけ離れている」と指摘されると、逆ギレ。「ホテルが一番、人に文句を言われない」「自分のお金もあるので自分で払っている」と強調、今後もホテル通いを続ける方針だ。物価高の昨今、高級ホテルの飲食を「安い」と断言する首相の金銭感覚に、衆院選を控えた与党内からも戸惑いの声が出ている。』 (ヒント! 全部で05個の質問ができます。) 【答え】 麻生首相逆ギレ、ホテルでの飲食「安い」 |
いくつ発見できましたか?
・実際の議論では、この方法を使いすぎると相手がイライラして、かえって説得から遠ざかってしまうことがあるので、本当に重要な質問だけを選んだほうが良いです。また、なぜその質問が大事だと思うのかを非難がましくなく説明したり、自分の意見も述べるようにすると良いでしょう。
・逆に言えば、自分で書いた主張文に対して、このつっこみを入れることによって、反対論者から見たときにどんな情報が足りないのかを発見するのに役立ちます。その答えを書き足していけば論理的な主張になるでしょう。
次は口頭での弁論にチャレンジしてみましょう。
次の動画は、自民党と民主党の若手議員による討論会の模様です。 「なぜ?」の習慣を意識しながら議員の主張を分析してください。
【討論会】自民党青年局VS民主党青年局 道路特定財源に関する公開討論会(YouTube)
こういう問題をもっとやりたい方は、問題集のコーナーを見てください。ちなみに、中学高校でも本章や前章のような授業をもっと増やした方が良いと思うのですが、いかがでしょうか?
大事なこと: 今日からは、あらゆる文章を読むとき、そして、全ての会話を聞く時に、「なぜ?」の習慣を意識しながら生活してください。これは上達のコツです。
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目次
●はじめに 【クリティカル・シンキング(批判的思考)とは】
■反論のための基礎知識。
●前提と結論のつながり 【演繹法(えんえきほう)】
●前提と結論のつながり 【帰納法(きのうほう)】
●前提と結論のつながり 【逆と裏と対偶】
●前提と結論のつながり 【必要条件と十分条件】
●前提と結論のつながり 【論理の欠陥あれこれ】
●前提と結論のつながり 【隠れた前提には5つの種類がある】
●前提と結論のつながり 【隠れた前提の一種 「言葉の定義」】
■質問と反論の仕方。
●反論の原則 【前提(根拠)を攻撃せよ】
●質問と反論の技術 【個々の前提に反論せよ】
●質問の技術 【「なぜ?」の習慣 批判的思考】
●質問の技術 【抽象的な意見を具体化させてあげる】
■間違った反論の仕方。
●反論の禁じ手 【論点に沿った反論をせよ (論点のすり替え)】
●反論の禁じ手 【相手の主張を歪めてはならない (ダミー論証)】
■精神論。
●精神論 【結論に賛成だと批判的思考力が麻痺する (論理飛躍)】
●精神論 【本当にこの説明で相手が理解できるだろうか?】
●精神論 【自分の間違いは認めたくない (認知的不協和)】
●精神論 【意見と人格は切り離して考えよう】
●精神論 【相手の感情に配慮しよう】
■練習法。
●練習法 【クリティカル・シンキングの訓練法】
論理的な反論の仕方についてさらに深く学習したい方には、小野田博一氏の『論理的に話す方法』をお薦めします。論理の欠陥を見つける手法が、やさしい文章で詳しく解説されています。
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