第二章 論理的な反論の仕方

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●メンタル管理―相手の感情に配慮しよう

日常の議論はディベート試合とは異なります。ディベート試合では、審判さえ説得すれば勝つことができます。しかし、日常の議論には審判がいません。したがって、相手の心証を悪くすると、特に自尊心を傷つけると、相手はあなたには心を閉ざしてしまい、その結果説得に失敗します。心を閉ざした人は攻撃的になったり、相手の話を聞かなくなったりします。それゆえ、議論の相手が審判であるというくらいの気持ちで対話をする必要があるのです。ちなみに、今回は掲示板の議論も日常の議論に含みます(審判がいないため)。

相手の感情面への配慮については第六章で詳しく書いていますが、ここでも簡単に触れておきます。次の二つの方法を使ってみましょう。

1.相手の意見をまとめて、自分の言葉で言い換える。
自分の意見ばかり言っていては、相手は本当に自分が理解されているのかわからなくなります。そこで、こちらから相手の考え方を理解しているというメッセージを送ってあげましょう。すると相手は、自分が本当に理解されていると感じて、あなたともっと交流を深めたいと思うようになります。つまり、お返しにあなたの話も真剣に聞いてあげようという態度になるのです。

これは相手の書いた文章をコピー&ペーストして引用する作業とは全く異なります。気をつけましょう。

例)鈴木 「Aだと思う。なぜなら、Bだからね。」
   自分 「鈴木さんは、BだからAだと思うんですね。」


相手方の言い分を聞いてやろう、という気持ちがなくなったら、もうその人の負けである

ラ・ロシュフーコー 「道徳的反省」


2.「わたし」を主語にして話す。
「あなた」を主語にしたメッセージは、相手に攻撃的な印象を与えます。「あなた」を主語にすると相手を責める言い方にしってしまうので、自尊心を傷つけられた相手は心を閉ざしてしまいます。私の経験則では、掲示板で反感を買う人は「あなたは云々」というメッセージを発していることが多いです。

一方、「わたし」が主語のメッセージは、自分の考え方を率直に伝える言い方なので、相手の自尊心を傷つけにくいと言えます。

【問題】 次の“言い方”のうち正解はどれ?
A 「あなたは間違っています。」
B 「あなたはバカですね。」
C 「あなたの意見は間違っています。」
D 「私の考えはこうです。」

空白部をマウスでドラッグしてください。
答え (正解はDです。
Aは、「あなた」が主語で、相手の意見ではなく人物を批判しています。
Bは、「あなた」が主語で、相手の人格を侮辱しています。
Cは、「あなた」が主語で、相手の意見をすべて否定しています。(部分は正しいかもしれない)
Dは、「わたし」が主語のメッセージです。

・以上のことをまとめると次のようになります。

鈴木「Aだと思う。なぜなら、Bだからね。」
自分「鈴木さんは、BだからAだと思うんですね。でも私の意見はちょっと違ってCなんです。なぜなら〜(根拠を述べる)。」


如才なさとは、敵を作らずに要点を言う技術である。
−H.W.ニュートン−


Q 掲示板で煽られたらどうしたらいいの?
もしも掲示板で煽られたときに、議論を不毛にさせないためにはどう対処したらよいのでしょうか? 考えてみてください。

【問題】 次のようなことを書かれたら、どう対処すべき?
(あなたに対して)「なんか空気読めないやつが来たな。」

よくない例 (『「空気読めない」の定義は何ですか? それが私の主張の根拠とどう関係があるのですか? 「空気読めない」が侮辱だとしたら、あなたのしていることは人格攻撃という非論理的な発言です。やめましょう。』

よい例 (スルー。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

もしも、相手の書き込みの中に、「煽り」と「返答したくなるような意見」が一緒に混ざっていたときには、次の選択肢があります。
1.煽りの部分だけが全くなかったかのように返答する。(徹底的に
2.その人物自体をスルーする。

相手の感情面に対する配慮についてさらに詳しく知りたい方は、第六章をご覧ください。

大事なこと: [意見の論理性]+[感情への配慮]=説得の成功。

腹が立ったら、何か言ったり、したりする前に十まで数えよ。それでも怒りがおさまらなかったら百まで数えよ。それでもダメなら千まで数えよ
                  -トーマス・ジェファーソン-

沈黙は口論よりも雄弁である
                    -トーマス・カーライル-

巧みにしゃべる機知と沈黙する術を心得ていないことは大いなる不幸である
                     -ラ・ブリュイエール-


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論理的な反論の仕方についてさらに深く学習したい方には、小野田博一氏の『論理的に話す方法』をお薦めします。論理の欠陥を見つける手法が、やさしい文章で詳しく解説されています。

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