論理的思考力と論理的な議論




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二度もぶった!親父にもぶたれた事ないのに!【伝統に訴える論証】

最終更新日:2016.1.3

今日は
・伝統に訴える論証 (でんとうにうったえるろんしょう)
・新しさに訴える論証 (あたらしさにうったえるろんしょう)
これをやるぜ!



伝統に訴える論証
別名「伝統論証」

古くからある考え方は常に正しいとする前提に立った主張です。しかし古い考え方が必ずしも正しいとは限りません。

「昔は太陽が地球の周りを回っていると考えられていた。だからこれからもそう考えるべき」


古い考え方が常に正しいと仮定するとあらゆる事は変更できなくなりますが、べつにそんな事はありません。

「これまでは女性に参政権はなかったのだから、これからも必要ない」
「これまでは民主主義でなかったのだから、これからも必要ない」
「これまでは義務教育はなかったのだから、これからも必要ない」
「これまでは社会保障はなかったのだから、これからも必要ない」
「これまでは赤字国債を発行してきたのだから、これからもそうすべきだ」
「これまでは道路を作ってきたのだから、これからもそうすべきだ」
「これまではゆとり教育をしてきたのだから、これからもそうすべきだ」

ほかに、新しい案に対して「前例がないからダメだ」と言うのも伝統論証です。

論理構造
隠れた前提1.古い考え方は常に正しい。 ←本日の誤謬
前提2.Aは古い考え方である。
前提1と2より.Aは正しい。...(結論)

前提1が誤謬である理由は2つ。
・過去においては妥当であった根拠が現在では妥当でない可能性があるため。
・そもそも当初から妥当でなかった可能性があるため。

「人間のご先祖様は一夫多妻制だったはずだ。だから男は浮気をしてもよい」

デジャブ!

「質問する前に自分で調べろ。パソコン通信時代はそれが当たり前だった」

いるーこういう人いーるー

「日本人は農耕民族だから、欧米人と違って肉を食べる必要はない」

この人もよく見る

「同性愛が正常ならとっくの昔に社会的に認められているはずである。だから同性愛は異常」

さっきヤフコメにいました。

オヅラさん 「近頃、賞味期限の偽装問題が相次いでいるが、そもそも昔は賞味期限の表示義務などなかった。だから賞味期限の表示は必要ない」

過去になかった制度だからといってメリットがないとは限りません。施行前後の食中毒の件数を比較したら違いがあるかもしれない。さらに

オヅラさん 「だって昔は賞味期限がなくても食中毒は起きなかったんでしょ?」

こうなると早まった一般化や確証バイアスに発展する可能性が出てきます。

A氏 「教科書をデジタル化するべきだ」
B氏 「日本人は昔から紙の教科書で勉強してきたんだよ!」

B氏は現在においても紙の教科書のメリットが上回る理由を説明できていません。

A氏 「次回オリンピックの新競技場には快適な屋根付きを採用すべきだ」

B氏 「古代オリンピックの競技場には屋根なんかなかった。風雨にさらされながら競技を行うのがオリンピックの原点。お嬢様じゃあるまいし、古代ギリシャの精神を見習って頂きたい」

B氏は具体的なメリット・デメリットを示せていません。


■親から教わったから正しい系
Wikipediaから引用

ある女性がハムを料理するとき常に端を切って捨てていた。友人などから「なぜ捨てるのか」と聞かれると、彼女は「母親がそうしていたからだ」と答えた。彼女自身も母親がなぜそうしていたのかが気にかかり、母に尋ねると、母も「自分の母がそうしていたからだ」と答えた。そこで祖母に尋ねると、「鍋に収まらない大きさだったので端を切ったのだ」と答えた。

これは過去において妥当だった根拠が現在では妥当でなくなった例です。

「今は教師の体罰が問題視されているが、私が子供の頃は親に言いつけると親からも殴られたものだ。むしろ親のほうから先生に『どんどん殴ってください』と言うくらいだった」

言外の意:だから結論として体罰はメリットが上回る。なぜなら私の親は常に正しいからである。でも明言するとその根拠も書かなきゃならないから止めておこう。

ニュータイプ「二度もぶった!親父にもぶたれた事ないのに!」

根拠薄いよ!何やってんの!

「私は幼い頃から『家事は男のすることではない』と親から教わってきたので家事はしない」



■ことわざに訴える論証
ことわざはそれを考えた人があらゆる状況を想定していたわけではないので、根拠にはなりません。例 「二度あることは三度ある」と「三度目の正直」は矛盾しています。

在日外国人 「日本の空気は村社会的です」
日本人 「文句言うな、日本には郷に入れば郷に従えということわざがある」

わかりやすく書き換えるとこう

「文句言うな。日本には昔、その土地に入ったらそこの習慣に従うべきだと言った人がいる。誰がどういう根拠で言ったのかは知らないが信じろ」

ことわざは結論であって根拠ではありません。

おまけ

「伝統に訴える論証は伝統的に行われてきたので誤謬ではない」

論点先取



新しさに訴える論証

新しい考え方は常に正しいとする前提に立った主張です。

隠れた前提1.新しい考え方は常に正しい。←偏見です
前提2.Aは新しい考え方である。
前提1と2より.Aは正しい。...(結論)

最新の理論がいつも正しいわけではありません。例えば
・最新の手術方法は失敗リスクが高いかもしれない。
・開発されたばかりの薬は副作用が強いかもしれない。
など、ほかにも

「最新のロボトミー手術(*グロ注意)は
これまでの精神療法よりもはるかに効果的」

「最新のWindowsMEは従来のWindows98SEよりも
安定したシステムを提供いたします」

「最新のWindowsVistaは従来のWindowsXPよりも
快適な動作を提供いたします」

「最新のWindows8は従来のWindows7よりも
ストレスのない操作性を提供いたします」


このように、新しいモノに手を出す行為は人柱になるリスクをはらんでいます。「その考え方は古い、もうそういう時代じゃない」と言うだけでは根拠にならないので気をつけましょう。


【まとめ】

みんな!オラにちっとつ元気を分けてくれ!Tweet

関連サイト
伝統に訴える論証 - Wikipedia
発生論の誤謬 - Wikipedia
新しさに訴える論証 - Wikipedia
NHK高校講座 ロンリのちから 第18回 横ならび論法(動画)



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