第四章 統計の嘘の見抜き方

嘘には3つの種類がある。 嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ。
− ベンジャミン・ディズレイリ −

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統計の嘘2【偏った標本

統計を採るためには、調査の対象となる全体の集団(母集団)の中から、実際に調査の対象にする標本抽出する必要があります。

どういう事かと言うと、例えば、東京都民の統計を採るときに、都民全員を調べるのは(人が多すぎて)無理ですから、2千人くらいの都民を無作為に抽出して調べる必要があるのです。

無作為に抽出された人々(標本)は、東京都民全体をそのまま縮小したのとほぼ同じ性質を持つ、平均的な都民の集団になります。

しかし、もしも標本の抽出が無作為に行われずに、作為を持つ人物の手により、偏りのある抽出が行われた場合、統計結果の信憑性は失われます。

なぜなら、偏った標本は偏った結果しか生まないからです

例えば、「ポルノ雑誌の出版規制に賛成か?」というアンケート調査を行ったとしましょう。

そのさいに、ポルノ雑誌の紙面を通じてアンケート調査を行えば、結果は「反対」に大きくに偏ります。なぜなら、そのアンケートに答えた人達はポルノ雑誌を講読しているのですから。

このとき、アンケートの対象として選ばれた標本は、無作為に選ばれた平均的な人々ではないのです。

◇また、アンケートの回答率も結果の偏りを生み出します。
(ダレル・ハフ著『統計でウソをつく法』の内容を要約して引用します。)

ある大学が自校の卒業生の所得を調べるため、卒業生に質問紙を送った。回答率は10%。質問の結果、卒業生の所得は国民平均よりも高い事が判った。しかし、この結果には偏りがある。なぜなら、貧乏人は高所得者に比べて、所得の公開を嫌がるため、回答率が低いからである。しかも、住所不定の野宿者には質問紙を送る事もできない。したがって、平均を引き下げる人々は、始めから集計の対象から除外されているのです。

次の文章は、標本に偏りのある調査の例です。(冗談のコピペから引用)

【社会】インターネット利用率ついに100%に−総務省の実態調査で判明

先月27日に実施された、インターネット利用に関するアンケートでインターネットの利用率が100%となっていたことが明らかになった。麻生総務大臣は「これは政府主導によるIT政策の効果の現れと言っていいだろう」とのコメントを発表した。

調査したのは、総務省統計局統計センターなど。今年四月にインターネット上でアンケートを実施し、約二万三千人から回答を得た。

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◇少し前に、日本で次のような説が流行しました。
「牛乳の消費量は日本人よりも北欧人の方が多い。しかし、骨折率は日本人よりも北欧人の方が高い。したがって、牛乳を飲むと骨が弱くなる。」

この説の影響を受けて、日本での牛乳販売量が減少したと言われています。

それについて詳しく検索してみると、次の記事が現れます。

スウェーデンやデンマークの飲用牛乳類の消費量は日本の3倍以上((社)日本酪農乳業協会)であるのに、「西欧諸国の人たちの大腿骨けい部の骨折が日本人の2〜6倍あることを多くの研究者のデータが示している」(辻学園栄養専門学校中央研究室広田孝子教授)
http://www.snfoods.co.jp/kenbunroku/061005_01.html

ここで研究者は、骨折という言葉を「大腿骨けい部の骨折」と定義しています。しかし骨折率全般についてのデータは公表・比較していません。 次に同ページで、

近畿大医学部伊木雅之教授は「平均的な骨密度は北欧人の方が高く、大腿骨けい部の骨折が多いのは脚が長く体が大きいという体形の問題が大きいから」と説明、

牛乳と骨折率の因果関係は否定されています。 更に他のサイトでは、

近畿大医学部の伊木雅之教授(公衆衛生学)は「平均的な骨の密度は北欧人の方が高く、体形の問題が大きい」とみる。同教授によると、背骨の骨折率は日本人の方が高いが、大腿骨では逆転する。 http://hatch.at.webry.info/200608/article_15.html

そもそも、骨の強度と牛乳の摂取量の因果関係を調べるのなら、牛乳の摂取量と骨密度の相関を調べる方が適切です。

また、北欧は日本に比べて寒い地域なので、道路が凍って転倒しやすいという環境要因も影響する可能性があります。

さらに、北欧は日照時間が短いので、カルシウムの吸着に必要なビタミンDが不足するとも言われています。

参考記事: 第一章 論理的な主張の仕方 論理の原則6 【結論と根拠の繋がりを書く】

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◇次は統計を使って、第七章でとり上げる優生思想を簡単に作り出す方法を説明しましょう。

先ずは、人種、性別、宗教、民族などの属性の中から何でも良いので、一級市民にしたいグループと、二級市民にしたいグループを選びます。

次に、一級市民の母集団から意図的に、高度な教育を受けた被験者(標本)を抽出し、二級市民からは良い教育を受けていない被験者を抽出します。そして被験者に筆記試験を受けさせれば、優生思想の大義名分が完成します。当然、二級市民の方が劣っているのです。

参考記事: 認知バイアス【今日から俺は一級市民 (内集団バイアス&恨みに訴える論証)】

最後に問題を解きましょう。

【問題】 (『統計でウソをつく法』より引用)
次の統計のトリックを見抜いてください。

「米西戦争の間、海軍の死亡率は1000人につき9人だった。一方、同期間のニューヨーク市の死亡率は1000人につき16人だった。海軍はこの数字を使って海軍に入ったほうが安全だと宣伝した。」

【答え】

海軍の部隊は健康な青年達から構成されている。一方ニューヨークには赤ん坊、老人、病人もいるから。

関連サイト
詭弁術の考察―統計の利用2
チェリー・ピッキング - Wikipedia

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目次
■統計のウソを見抜く方法。
●統計のウソ1【比較対象の定義が異なる】
●統計のウソ2【偏った標本】
●統計のウソ3【少ない標本】
●統計のウソ4【誘導的な質問】
●統計のウソ5【空気を読んで答える人】
●統計のウソ6【見栄をはる人】
●統計のウソ7【利害関係のある調査員】
●統計のウソ8【平均には三つの種類がある】
●統計のウソ9【視覚でごまかす】
【動画で学ぶ統計の基礎】
■ニセ科学とインチキ実験を見抜く方法。
●インチキ実験1【対照実験をしない】


統計のウソを見破る方法についてもっと知りたい方には、ダレル・ハフ氏の『統計でウソをつく法』をお薦めします。

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