事実など存在しない。あるのは解釈だけだ。
-F.ニーチェ- |
目次
■ 権力闘争とは? 【決定権者は誰?】
◇ 権力闘争のやり方1 【賞で相手をコントロールする】
◇ 権力闘争のやり方2-1 【罰で相手をコントロールする】
◇ 権力闘争のやり方2-2 【罰で相手をコントロールする おまけ】
◇ 権力闘争のやり方3 【分断して統治せよ】
◇ 権力闘争のやり方4 【政治家の選び方】
◇ 権力闘争のやり方5 【真の目的を隠す相手への対処】
この章は、前章までを読まれた方を対象に書かれております。
■権力闘争とは? 【決定権者は誰?】
第一章で、「善悪や正しさは視点によって異なる」と説明しました。利害が対立している議論では、権力の強いほうの者が最終決定権を握ることがおうおうにしてあります。ここでの権力の定義は、従わせたい相手に対して「賞や罰」を与える力のことです。
ここでディベート試合と日常の議論の違いについて説明します。
1.相手の感情面あまり配慮しなくてよい。
ディベートでは説得する相手は審判であり、審判が勝敗を決定するので、あまり対戦相手の感情に配慮する必要がありません。一方、日常の議論では、説得するのは相手なので、相手の感情に配慮する必要があります。これについては第二章で少し触れています。さらに第七章で詳しい技術を解説しています。
2.権力が介入しない。
ディベート試合において論者の権力の強い弱いは勝敗とは関係ありません。ルール上、意見の論理性、審判に対する説得力のみで競われます。一方、日常の議論にはルールがありません。両者の利害が対立している場合は、一方の者にとっては正しい意見が、もう一方の者にとっては間違った意見となります。
そして、強者(権力をもつ者)にとっては、相手に譲歩する理由は何もありません。強者は自己の欲求を満たすために、妥協案は考慮せず、罰を与える力(武力、相手が嫌がることをする、脅して圧力をかける、相手の所有物や必要なものを取り上げる、与えない、など)や賞を与える力(経済力、褒美を与える、など)の権力を行使して相手を従わせようとするのです。ほかにも、人間心理を巧みに利用してコントロールする方法も使われます。
したがって、弱者(権力をもたない者)の意見を反映させるためには、強者をどうにかして説得するか、強者に権力をもたせないようにする(弱者が権力をもつ)必要があります。
権力闘争の身近な例には民主主義政治をあげることができます。国民の多数決により決定された与党が国政を担当する制度は、多数派が勝ち少数派が負ける制度です。(多数決は権力闘争です。)
それゆえ、民主主義政治では政策を実現させるために、より多くの有権者を説得して、投票行動を促す必要があります。そうして、最も多数の有権者から支持された政党の政策が世の中に反映されるのです。
そのほかにも、親子、会社員の夫と専業主婦の妻、雇用主と被雇用者などの関係で権力が使われることがあります。
それでは、第二章に出てきた「説得の公式」に新たな要素を加えましょう。
[意見の論理性]+[感情への配慮]+[権力への非服従]=説得の成功。
ちなみに、権力を使って相手を従わせる行為は説得とは異なります。相手が納得していなければ説得したことにはならないためです。つまり、権力は納得していない相手を動かす力だと言えるでしょう。
私は、積極的に権力を使って相手を服従させるべきだと言っているわけではありません。日常的な対立のほとんどは民主的な方法だけで解決できます。ただし、権力を行使してこちらを服従させようとする者が必ず現れる、ということだけは知っておくべきです。でないと、こちらがいくら議論を頑張っても、想定外の相手の圧力に潰される可能性があるためです。自衛のためにも本章を読むことをお薦めします。
権力をもたない人の中には、権力に関して学ぶこと自体が悪だと考えて毛嫌いする人もいるでしょう。そんな考え方を動物にたとえた面白い記事が「分裂勘違い君劇場」というブログにあるので引用します。(気が変わってくれることを期待します。)
それは、シマウマの価値観なのだと思う。
シマウマにとって、ライオンは、悪そのものである。シマウマの離れた目から見ると、ライオンは悪魔の化身のように、醜悪に感じられる。*3
なぜなら、ライオンは、シマウマを蹂躙し、殺して食うからである。シマウマにとってみれば、理不尽きわまりない。そして、ライオンの持つどう猛な歯と筋力は、悪なのである。(中略)
なぜ、歯と筋力が悪になったのかというと、シマウマの歯と筋力が、ライオンの歯と筋力よりも劣っているからだ。しかし、ライオンにしてみれば、歯と筋力は、善である。なぜなら、自分の歯と筋力が優れているからだ。ライオンの価値基準からすれば、優れたものが善であり、劣ったものは悪である。
しかし、ここで一歩引いて考えてみよう。それらは、単に立場の相違から生じる、意見の違いに過ぎないのか?
そこで、シマウマとかライオンをいったん忘れて、生物一般について考えてみる。そうすると、歯が強く筋力が強靱ということは、一般に、生物にとって「良い」ことであることが分かる。それ自体は、ぜんぜんネガティブではなく、ポジティブなことである。
なぜなら、それは生きて、生命を謳歌するのに、プラスとなる要因だからだ。つまり、足が速い、胃が丈夫だ、頭がよい、容姿が美しい、より重いものを持てる、資源を豊富に持つ、というのと同じような、生命にとってのポジティブ要因なのだ。それらは本来は、少ないより多い方がよいものなのだ。
そう考えると、ライオンの価値観というのは、生命を謳歌するためのポジティブ要因を善とする価値観であり、シマウマの価値観というのは、生命を謳歌するためのポジティブ要因を、悪だと考える価値観だということが分かる。
でも、本当は、シマウマにしても、歯は弱いより強い方がいいはずなのである。筋力は弱いよりも強い方がいいはずなのである。なぜなら、シマウマも生命だから。にもかかわらず、生命を貶め、衰弱させるような価値観を持つというのは、とても不幸なことではないだろうか。
*3:悪魔に角としっぽと牙があるのは、偶然ではないのかも。それは、捕食者のイメージにダブっている。人間をエサとする生物の象徴だ。
(分裂勘違い君劇場: 「おまえも空気の奴隷になれ」って?「空気読め」の扱い方次第で人生台無し より引用。) |
関連記事: 第一章 論理的な主張の仕方 論理的な思考法1 【正しさ(善悪)は視点(前提)よって変化する】
●権力闘争のやり方1 【賞で相手をコントロールする】
賞によるコントロールとは、相手に賞(相手が欲しがるもの)を与えることによって、相手が自分にとって望ましい行動をとるようにしむける方法です。賞に効き目をもたせるには、次の三条件が常に満たされていなければなりません。
1.相手がこちらに服従する(こちらの求めるように行動する)ほどに強く、何かを欲しがっていなければならない。あるいは必要としていなければならない。
2.こちらが提供する賞が、相手にとって何らかの欲求を満足され得ると、相手が思えるものでなければならない。
3.その賞を手に入れるために、相手がこちらに依存していなければならない(相手が自分で、その欲求を満たす能力がない)。
例を見てみましょう。
(上司が部下に)「君たちが頑張って利益をだしてくれたら、ボーナスをたくさんあげよう。」
(役人が業者に)「OBの天下り先を引き受けてくれたら、君の会社に仕事を任せてあげるよ。」(ワイロも賞の一種です。)
(親が子に)「テストで百点を取ったら、一万円をあげよう。」
(市民が政治家に)「高齢者福祉を手厚くしてくれるなら、あなたに投票しよう。」 |
企業が一時期こぞって導入した「成果主義」も、賞の力を使った動機付けの方法です。有権者が選挙投票で政党や政策を評価する行動も、政治家に対して賞の力を使っていると言えます。ほかに賞の力を使って政治に影響を与える方法には、政治献金というのもあります。
例えば、日本経団連は各政党の政策を評価して、それを基に政治献金額を決めています。その結果、平成19年の経団連の政治献金額は29億9000万円で、うち29億1000万円が自民党向け、それ以外がほかの政党向けになりました。これは自民党が日本経団連にとって有利な政策をとっているためです。
対照的な例として、労働者の権利保護を主張する日本共産党は、企業献金を一切拒否しており、主に党費と「しんぶん赤旗」の収益で運営しています。
ちなみに、全国の政党や政治団体が2007年に集めた政治資金の総額は2866億円です。その内訳は、
・個人献金 440億万円。
・企業・団体献金 139億万円。
・パーティー収入を中心とする事業収入 619億万円。
―献金総額 979億万円―
・そのほかの収入は、党費や借入金などです。
(情報源はここ。)
・党費とは、全国に200万人ほどいる各政党の党員が支払う年額数千円の運営費のことです。(詳しくはここ。)
・パーティー収入とは、政治団体が開催する政治資金パーティーの売上げのことです。誰がパーティー券を買っているのかはよくわかりません。
参考までに、よく利害の対立が取りざたされる「企業」と「労働者」の戦力を分析してみましょう。
・企業が一年間に使えるお金をどれくらい持っているのかを調べてみました。平成19年度の法人の所得総額は55兆2,871億円です。(情報源はここ。)
・対して、平成19年中に民間企業が労働者に支払った給与の総額は201兆2,722 億円です。(情報源はここ。)ここから税金や保険料、最低限度の生活費を差し引いた金額が、労働者が一年間に自由に使えるお金です。
もし仮に5,377万人の労働者が毎年一万円ずつ献金したら、5,377億円になりますね。しかし、自分だけが献金をして他人は一円も払っていなかったら、自分が払ったお金は無駄になりそうです。こういった計画を実現するためには、陣頭指揮をとって集団を団結させる人間が必要です。その点、企業には日本経団連というリーダーがいるので団結力は強そうです。
★賞は子どもの教育に効果があるか?
世の中の大人の多くは、賞を巧みに使って子どもをしつけようとするはずです。しかし、賞への依存には副作用があります。別のページで、教育に賞を用いた場合の副作用について記してあります。この副作用は大人にも表れることがあります。
●権力闘争のやり方2-1【罰で相手をコントロールする】
力なき正義は無能であり、正義なき力は圧制である。
なぜならば、つねに悪人は絶えないから正義なき力は弾劾される。
それゆえ正義と力を結合せねばならない。
-ブレーズ・パスカル- |
罰でコントロールするとは、相手に罰の力で圧力をかけることによって、相手が自分にとって望ましい行動をとるようにしむける方法です。罰に効き目をもたせるには、次の三条件が常に満たされていなければなりません。
1.罰は相手にとって、嫌なものでなければならない(本人の欲求に反するもの)。自分の何かを奪われる。拒否される。害になる。望ましくないと感じられる、というもの。
2.相手の望ましくない行動を、相手がやめたいと思うほど、罰が強く、相手に嫌だと思わせるものでなければならない。
3.罰せられる状況から、相手が逃げられない。相手が必要とするものを、こちらしか提供できないので、相手がその関係の中にとどまらざるを得ない。
例を見てみましょう。
・武力を行使する。苦痛を与える。
(司法)「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」
(外交)「核兵器を廃棄しなければ、経済制裁を加える。」
・必要なものを取り上げる。与えない。
(官僚が業種に)「OBの天下り先を引き受けないのなら、今後君の会社には仕事は巡ってこないと思いなさい。」
(上司が部下に)「サービス残業ができないのなら、君はクビだ。(給料の供給を停止する)」
(親が子に)「今日、お前は悪い事をしたから、夕食は抜きだ。」
(夫が妻に)「私の言うことが聞けないのなら、今すぐ出て行け!」 |
相手をコントロールするためには、相手があなたに依存し、あなたを恐れ、その両者の関係から簡単に逃げられないようにしなければならない。
第一章の【主張A】を思い出してください。この主張の中で、市民と犯罪者は利害が対立する関係にあります。しかし、市民も犯罪者もお互いに妥協するつもりはありません。それゆえ、市民は「警官の増員」という罰の力で犯罪者をコントロールしようとするのです。
次に、罰の三条権が満たされていないために、罰が力を失う現象を、「労働基準法」を例にとって解説します。今回は「労働時間の超過」と「残業代の不払い」について取りあげます。労働基準法には次の条文があります。
第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。 (法庫―労働基準法より。) |
要するに、一日8時間、週40時間を超えて労働させてはならない、ということです。ただし、労働組合と協定を結べば年に360時間だけ32条の規定を超えて労働させることができます。ただし、その場合は25%増しの残業代を支払わなければなりません。(36条と37条の要約)
しかし、この規定は守られていません。資料を見てみましょう。
1.労働時間の超過に関して
・週間就業時間が60時間以上の従業者の割合は10%(p.14)
・週当たり労働時間が50時間以上の労働者の割合は28.1%
・30代男性労働者に限ると、平均週50時間、4人に1人は週60時間以上。100時間を越える労働者もいる。
2.不払い残業に関して
次のグラフをご覧ください。
日本人の年平均労働時間
出典: 関西大学 - 労働時間のコンプライアンス実態とサービス残業 (p.173)
上のグラフには三本の線が引かれています。うち二本は厚生労働省の「毎月勤労統計調査」にもとづく数値です。もう一本は総務省統計局の「労働力調査」にもとづく数値です。
数値の差の原因は調査方法にあります。厚生労働省は、企業に質問をして、企業が貸金台帳をもとに申告する方式を採用しています。一方、総務省は労働者の申告にもとづいて統計をとっています。
企業の申告には、違法な不払い残業は含まれていないので、差分の300時間が不払い残業であると推定できます。次に、規定が守られない理由を分析します。
理由1.利害の対立
企業と労働者の利害の対立。企業からしてみたら、労働者を安い賃金で長く働かせたほうが利益が大きく、一方、労働者は残業費を貰ったほうが利益が大きくなります。この点において、企業と労働者は利害が対立しています。ゆえに、企業はできるだけ規定を守りたくないと考えます。
理由2.罰の三条件が満たされていない
罰の三条権を一つずつ検証していきましょう。
条件1.罰は相手にとって、嫌なものでなければならない。
次のは、労働時間と割増賃金の違反に対する罰則規定です。(抜粋)
第119条 6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金。
第114条 裁判所は、賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。
|
・第114条は要するに、不払いの賃金の倍額を支払わなければならないという意味です。
・罰金は被害者の人数に関らず一件として数えられます。
これは確かに、嫌な罰です。
条件2.相手の望ましくない行動を、相手がやめたいと思うほど、罰が強くなければならない。
1.6箇月以下の懲役について
これは強力な罰でしょう。しかし、懲役刑はとくに悪質な違反に適用されるものであり、違反が続いている現状から推測して、適用されるのはまれであると考えられます。(資料はなし。)
2.30万円以下の罰金について
これが効果があるかどうか確かめるためには、企業の経済力を調べる必要があります。今回は、例として、私が個人的に調べた結果、過去に違反した例のある三社を取りあげます。 (2007年度の利益) (経常利益とは、売上から原価や人件費などの経費を引いた利益額です。)
利益が最も少ないワタミでも30万円の罰金額は利益額の0.0058%です。仮にワタミがすべての従業員に年300時間の不払い残業を命じた場合、削減できる人件費は18億6677万円になります。(平均時給1744円で計算)。もし(全員から)訴えられても30万円の損失で、(誰からも)訴えられなければ18億円も儲かるのなら、リスクをとってみようという気持ちになります。
また、労働時間の超過に関しても、一人当たりの労働時間を増やして雇う人数を減らすことにより、削減できる社会保険料が罰金額を上回るので、罰金を払って超過労働させたほうが利益が大きくなる計算になります。ゆえに、この罰金は相手が望ましくない行動をやめたいと思うほど強い罰ではないと言えます。
3.不払い金と同一額の付加金について
これは、(全従業員への不払い額が同じとして)過半数の従業員が訴えでれば付加金が削減費を上回るので、有効な罰だと言えるでしょう。ただし、訴える人が少なければ企業は行動を変えません。
条件3.罰せられる状況から、相手が逃げられない。相手が必要とするものを、こちらしか提供できないので、相手がその関係の中にとどまらざるを得ない。
残業費の返還が実際にどれだけ行われているか調べてみました。まず、 日本人の平均時給1744円を、不払いの300時間にかけると、52万3200円になります。これを日本の雇用者数5524万人にかけると、国内の不払い総額は年28兆9015億円になります。(ほかにも7兆円説と27兆円説があります。) 次に、返還された額を見てみましょう。
労働基準監督署による残業賃金不払の是正(1件100万円以上)
2003年4月~2007年3月の4年間で、企業総数5824社、対象労働者総数71万4283人、総金額924億9765万円。
1年当たり1456社、17万8571人、231億2441万円 |
平成17年、是正勧告件数。(辻社会保険労務士事務所より。)
◇労働基準監督署の定期監督による是正勧告件数…2,518件
◇労働者の労働基準監督署への申告による是正勧告件数…28,906件
◇返還総額…232億9500万円 |
返還総額は不払い総額の0.08%です。7兆円説でも0.33%です。これでは「条件3.罰せられる状況から、相手が逃げられない。」を満たしているとは言えません。
企業が罰から逃げられる理由を考えてみましょう。付加金を支払わせるためには、労働者が請求して、裁判所が命令しなければなりません。しかし、その過程にはいくつかの障害があります。
・どんなことが労働基準法違反にあたるかわからない(知識がない)。
・証拠の残し方がよくわからない。
・弁護士費用がかかる。
・裁判のための時間を確保する必要がある。
・訴えて会社の業績が悪化したら共倒れになるので不安。
企業も罰の力を使えます。その関係から労働者が逃げられないケース。
・解雇されたら生活できなくなる、収入が一気に下がる。 |
個人が告訴するのが無理ならば、労働基準監督官が取り締まるという方法もありますが、それには監督官の数が少ないという難題があります。日本の法人数は296万社(平成18年)。監督官は2,761名(平成6年)。1,072社に1人です。毎年抜き打ち検査をするにしても、一人で日3.4件を処理しなければなりません。さらに、労災に遭う人は年12万5,918人(平成14年)。労働相談件数は年99万7,237件(平成19年)。計監督官一人あたり406件です。
ほかと比較してみましょう。国税庁職員は5万6000名、55社に1人。東京都の税務署員は208社に1人。警察職員は28万8,451名、年間の刑法犯認知・交通違反・事故件数を合計しても、39.4件に一人です。税務署と警察署にはノルマがありますが、監督署にはないそうです。
大事なこと: 何かを義務化する法律を制定するさいは、罰の三条権を常に満たさなければならない。
★罰は子どもの教育にも効果があるか?
別のページで、子どもの教育に罰を用いた場合の副作用について記してあります。この副作用の一部は大人にも表れることがあります。
強制力のない法は燃えない火であり、照らさない灯火である。
-ルドルフ・フォン・イェーリング-
われわれは犯罪者をつくる多くの法律を制定するのみで、
彼らを罰する法律は少ない。
-タッカー-
法の執行は法を制定するよりも重要である。
-トーマス・ジェファーソン- |
●権力闘争のやり方2-2 【罰で相手をコントロールする おまけ】
ある面では企業と労働者の利害が対立していることはすでに言いました。たとえ一個人が“論理と議論の知識”を用いて「法律を守れ!」と言ったところで、企業の圧倒的な圧力に潰されてしまいます。
では、労働者たちはなぜ民主主義を使って法律を変えたり行政を改革しないのでしょうか。被雇用者は全国に5524万人いるので数の上では有利なはずです。その原因をいくつか考えてみました。次のような人がいるのではないかと思います。
◇今のままで満足派
・尊法企業・団体に勤めている。
・仕事が生きがい。
◇仕方ない派
・自分も部下を使う立場なので。
・知識がない。
・エネルギーの欠乏。(長時間労働→問題について考える暇と体力が残らない)
・選挙に行ってもむだ。(学習性無力感)
・会社にお金がない。
・GDPが下がったらどうするんだ。
・権利を主張するのは恥ずかしい・怠け者だ・人から拒否される不安。
・居場所が会社しかない。
・サビ残をやめてふつうに競争する自信がない。
・権利を主張すると今までの人生が否定されるから。(認知的不協和)
◇そもそもほかにもっと重要な政治問題がある派 |
以上の人たちが権力闘争から抜けた結果、残りの勢力では数が足りないのでしょう。
★色々調べていたらこんな労働基準法改正案を見つけました、よくできています。興味のある方はご覧ください。『MZRC社会問題研究室 労働法違反には厳しく対応せよ』
日本では民主主義はいまだ実現していない。
それは可能性にとどまっている。
日本人が現実だと思っていることはほとんど幻想だ。
幻想はただ現状維持にだけ役立っている。
-カレル・ヴァン・ウォルフレン- |
関連記事1: 第一章 論理的な主張の仕方 論理的な思考法1 【正しさ(善悪)は視点(前提)よって変化する】
関連記事2: ■ 権力闘争とは? 【決定権者は誰?】
●権力闘争のやり方3 【分断して統治せよ】
分断統治とは、支配階層が世の中を統治し易くするため、支配される側の結束を分断して、反乱を未然に防ぐための統治法です。
支配される側を一級市民と二級市民に分けて、扱いに差をつけます。すると生活に不満があっても、一級市民は二級市民を見下すことで不満のはけ口にします。「自分はまだあいつらよりもマシだ」。とうぜん、二級市民は一級市民を敵視するようになります。支配される側の人々は仲たがいをし、小さな利害でも対立するようになるのです。
支配される側の人々は互いに争うので、支配階層に対する批判の矛先を逸らすことができるのです。分断統治は、人々が持つ差別意識や優越意識を利用しています。
たとえば、江戸時代の身分制度も分断統治といえます。身分制度とは、出身などにより生まれつき身分が固定されている制度のことで、江戸時代には士・農・工・商という身分制度がありました。支配階層である武士階級の下に、被支配階層の商人・職人・農民という序列が存在しました。
しかし、農民の下にもっと身分の低いえた・ひにん(部落)という賎民階級が存在していました。賎民(せんみん)とは、ふつうの民衆よりも下位に置かれた身分を指す言葉です。教育用の資料から引用してみましょう。
部落の民は、藩から差別的な制限を強制されており、例えば、水害の危険性の高い河原などの決められた場所にしか住むことを許されませんでした。また農民や町人との交際も禁止、職業や服装も制限されていたため、姿を見ただけで部落民だと判別できるようになっていました。さらに、部落の身分は法律により親子代々に受け継がされました。江戸幕府は身分制度をうまく利用して、武士による厳しい支配への不満を逸らし、民衆の結束を阻止したのです。
ではなぜ、民衆はこうも容易く分断されて、下を見て生きていくのか、そのヒントが「自己評価の心理学 」という本に載っています。「自己評価」とは、自信のようなもので、自分自身に対する評価のことです。
【自己評価と人種差別】
心理学の実験で、被験者になってくれた人たちにわざと難しい仕事をさせて失敗させたり、自分の死のことを考えさせて自己評価を下げさせてやると、そうされた人々は他人の悪口を言うか、そうでなければ犯罪に厳しくなったり、自分の文化とはちがう文化からの攻勢に不寛容になる(11)。たとえば、このような方法で自己評価を下げられたアメリカの市民たちは、自分の国の悪口を言う人間に対して厳しい判断を下す傾向にあった。また、別の実験を見ても、自己評価を下げられた人間は容易に人種差別的な偏見を口にするようになるという結果が報告されている。
もちろん、人種差別の原因は、自己評価が低いことばかりではないだろう。だが、自己評価が下がっている人間にほんの少しイデオロギーが手を貸してやれば、簡単に差別的な行為をするようになるはずである。
11.J.Greenberg et al.,<<Terror management and tolerance:does mortality
salience always intensify negative reactions to others who threaten one's
worldview?>>,Journal of Personality and sociar Psychology,1992,63,p.212-220
(「自己評価の心理学 」より引用。) |
社会的な階級が低い人ほど一般的に自己評価も低いと思いますので、まさしく統治者が恐れている層ほど、下を見て生きる習慣があるということになります。たとえば、ホームレスを襲撃する少年たちも自己評価が著しく低いと考えられます。犯人の少年たちは同世代に比べて社会的に低い位置にいると思いますが、彼らをそうさせたのはホームレスではありません。しかし、少年たちはホームレスを見下して、正義の名の下に襲撃しようとします。
これの応用に、外交問題をクローズアップして民衆の目を内政から外交へ向けさせる統治法があります。内政に対する民衆の批判が強くなってくると、仮想敵国を演出して国の外側に攻撃の矛先向けさせるやり方です。
ほかに分断統治の手法の一つに賞を使った統治があります。『分裂勘違い君劇場』というブログにわかりやすい記事が載っているので引用します。
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世界史を勉強すれば、この「抜け駆け」こそが、搾取と隷属を作り出してきたことがよく分かります。とくに、「抜け駆け」を利用した間接統治は、白人が有色人種を支配し搾取する時の常套手段です。
ラテンアメリカでも、アフリカでも、まず、現地の有色人種のうち、抜け駆けして白人に媚びを売った有色人種に特権的な地位を与えます。そして、その特権的な有色人種に、他の有色人種を支配させるのです。
そして、支配される有色人種には、「抜け駆け」して白人政権のために働けば、オマエも特権的な地位に就けてやるぞ、とささやくのです。
全文はこちら『分裂勘違い君劇場 プログラマの労働条件を過酷にしているのは、過酷な労働条件を受け入れるプログラマです』 |
権力者に逆らわない者、命令をよく聞く者を一級市民に昇格させてやり、反抗するものは二級市民の身分とする。一級市民には賞を与える、というわけですね。
・分断統治は小さな集団の中でも効力を発揮します。スタンフォード大学がある実験を行いました。刑務所を模した実験施設に囚人役と看守役の被験者を入れて、その動向を観察する実験です。この実験のなかで、看守役は賞と罰を巧みに利用して囚人役の結束を分断したのです。ほかのサイトから記事を引用します。
二日目、早くも事件が発生した。囚人らは監獄内で看守に対して些細なことで苛立ちはじめ、やがて暴動を起こしたのである。
看守らはこの事態を重く見、補強人員を呼んで、問題解決にあたった。しかし暴動は一向に収まらず、最後には囚人に向けて消火器を発射して怯ませ、その隙に監獄内に突入、全員を裸にした上で、暴動を主導した人物らを独房へと送ったのである
更に看守らは今後の暴動を抑止するために心理的攪乱(かくらん)作戦を開始した。まず暴動に関与していない囚人のグループを”良い”監房へ収容して彼等を丁重に扱い、そして関与した囚人のグループを”悪い”監房へと送り、過酷な扱いを行うことにしたのである。そして半日程が経過すると、今度は一部の囚人を、理由を教えずにそれぞれ交代させ、囚人らを混乱に陥れた。
つまりこの交代によって悪い監房に残された囚人らは、良い監房に移動した囚人が看守に何らかの密告を行い、その褒美で良い監房へと格上げされたのではないかと推測したのだ。
そしてこの巧妙な看守側の作戦は見事に功を奏し、たった二日目にして、看守と囚人の間のみならず、囚人内部でさえ、対立が発生した。
また途中から入獄したある被験者(彼は途中まで予備の囚人として待機していた)は、看守の態度を知るなりすぐにハンガーストライキ(絶食などによる抗議行動)を行ったが、逆に罰として真っ暗な独房へと押し込められ、数時間をそこで過ごすことを強要された。そして看守らは他の囚人らに対して、彼を独房から出す交換条件として毛布を渡すこと、より粗末な囚人服に着替えることなどを要求したが、囚人らはそれを拒否し、結果、更なる囚人間の対立を生んだ。
全文はこちら『情況の囚人 ― 1971年”スタンフォード監獄実験”とは』 |
分断統治には内集団バイアスが関係していると考えられます。これは自分の所属する集団が他の集団よりも優れていると錯覚する現象です。リンク先で詳しく解説しているので、よろしければご覧ください。
【まとめ】
支配者チームが勝利するためには、いかに民衆チームの結束を分断するかがカギになります。民衆チームが数で勝っているときに団結されると逆襲される恐れがあるためです。逆に、民衆チームが勝利するためには、いかに分断統治を見破って団結するかがカギになります。
★分断統治は、学校や家庭で、子供を管理する方法として使われることもありますが、そのように育てられた子供は民主的なコミュニケーションを覚える機会を失ってしまうので、権力闘争でしか物事を判断できなくなります。一方の民主的な教育法については第七章で詳しく解説しています。
関連記事:認知バイアス【今日から俺は一級市民 (内集団バイアス&恨みに訴える論証)】
●権力闘争のやり方4 【政治家の選び方】
日本は民主主義国家ですから、選挙で多数派に支持された政党が国の舵取りを行います。しかし、少数派になったからといって、その人達の意見が全く無視されるわけではありません。議会では与党と野党が議論を尽くしますから、過激な政策に対しては抑止力が働きます。
選挙には三つの結果があります。
1.参戦して、勝利する。(与党)
2.参戦して、少数勢力になる。(野党)
3.不戦敗、無条件降伏する。
このいずれかになります。このうち3を選んだ人、つまり投票しない人の立場は全く無視されてしまいます。
さらに投票率の低下が続くと、政治家は国民を無視しはじめます。どうせ国民は政治に関心がないのだから、浮動票には気をつかわなくても今ある固定票だけで選挙に勝てるだろう、と考えるようになります。しかし、投票率が高ければ、政治家は選挙に勝つために浮動票を獲得しなければならないので、国民の意見をよりよく聞くようになります。
しかしながら、政治家の選び方なんて知らない、誰からも教わってない、という方もいると思いますので、簡単なやり方を説明します。
◆政治家の選び方。
正しさは視点によって異なるということは以前に説明しました。つまり、すべての人々にとって“共通の正解の政治家”はいないということになります。なので自分の利益や価値観にかなった政策を主張する政治家を選びましょう。政治家の能力はその次に考えます。いくら能力が高くても自分の利に反した政治家を選んでしまうと意味がないので気をつけましょう。とくに優生思想を主張している人は避けましょう。独裁者になる可能性があります。
★自分の利益と価値観を発見する方法。
そのときの政治の争点になっているテーマについて書かれた本を読むのが良いでしょう。そのなかで自分はどの立場に立っているのかを意識すれば、どんな政策が理にかなっているのかがわかるでしょう。たとえば、Amazonで「談合」「ワーキングプア」「天下り」「年金」などのキーワードで検索すると、そのテーマに関連した本が表示されます。
・次に、具体的な選定に入ります。国政選挙の場合は、まず各政党のウェブサイトでマニフェストを読みましょう。そのなかで自分の利益や価値観と合致している政党を選びます。候補が複数ある場合は、いかに論理的に書かれているかを重視します。第一章や第二章の原則にもとづいて詳しく納得のいくように書かれているかを見ましょう。
◇論理な主張の原則おさらい。
1.問題の提起。(結論を支える理由)
2.原因の分析・特定。(結論を支える理由2)
3.2の証拠。(理由を支える事実)
4.解決策。(結論)
5.4の根拠。(結論を支える根拠、と根拠を支える事実)
6.4の具体的な実行手段(実行計画、5W3Hを確認する)
支持政党が決まったら、自分の選挙区から投票できる政治家の公式サイトにアクセスして、そこに載っている論文が論理的に書かれているかを確かめましょう。資格・経歴・実績も確認しておきましょう。
あなたなら次の二人の政治家のうち、どちらに投票しますか?
【政治家A氏の主張】
「子育て支援制度をもっと充実するべきです! 国民が安心して子どもを育てられない国なんておかしい! 今の日本には、経済的な理由で出産をあきらめている家庭が多い! 私は、国民が安心して子育てできる環境づくりを国に訴えていきます!」 |
【政治家B氏の主張】
「子育て支援を充実するべきです。現在の子育て環境には○○という問題があります。その原因は△△です、その証拠に××という調査結果があります。これを解決するためには政策Aを実施する必要があります。その根拠は□□です。さらに政策Aの成功を裏付ける事例Bがあります。そして、政策Aの実行計画Cです。」 |
A氏の場合は、自分の頭の中身を見て話しているので、具体的な中身が読み手に伝わりません。すると聞き手も、「本当にこの人は具体的な根拠もって計画を考えているのだろうか?」と疑います。もちろん、本当に政策に欠陥がある可能性もありますから、A氏のような政治家は避けるべきです。しかし、利害・価値観が一致する政治家がA氏しかいない、というのであれば仕方ありませんが。
一方、B氏の例文は(大雑把に作りましたが)、根拠をあげて説明しており、費用の試算などもしているので、論理的な構成をとっていると言えます。読み手が疑問に思う点をあらかじめ盛り込んでいるので親切な主張の形です。
政治家には、政策の中身そのものだけではなく、"政策を説明する能力"も必要になります。有権者を説得するさいも、議会で意見の異なる議員を説得するさいも、論理的に説明する必要があります。
参考記事: 第一章 論理的な主張の仕方 論理的な思考法1 【正しさ(善悪)は視点(前提)よって変化する】
行動でだけでは必ずしも幸福にはなれないが、
行動のないところに幸福はありえない。
ディズレーリ/イギリスの政治家
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●権力闘争のやり方5 【真の目的を隠す相手への対処】
第一章にも書きましたが、利害の絡んでいる議論では、本当の目的を隠しても主張を通して利益を得ようとする者がいます。
例) 政治家A「道路には需要があるので予算をまわすべきです。」
政治家Aの本音: 道路を作らないと献金が集まらないから困る。 |
政治家Aは、本当の目的を話したら、利害の対立する勢力から反対されることがわかっているので、偽りの理由で説得しようとしています。偽りを見抜くためには、相手はどういう立場の人なのだろう、これによって何か個人的な利益を受けるのだろうか? などと考えてみる必要があります。
ただし、その人の立場だけをあげつらって批判しても状況対人論証になってしまうで、批判するときには根拠を示しましょう。
江田けんじNETに面白い例があったので引用しましょう。
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衆議院議員選挙の場合、選挙期間は十二日間ある。まず、この十二日間の選挙運動期間中に、何と候補者同士の公開討論会が、法律で禁止されているのだ。
昔は、「立会演説会」というものがあって、すべての候補者が弁士として並び、それぞれ縦横無尽に論陣を張ったものだった。しかし、演説会場に特定の候補者の支援者が大挙押しかけ、会場が騒乱状態になったり、誹謗中傷が飛び交ったり、公正中立な運営が確保されなくなったという理由で禁止された。しかし、これは実は表向きの理由で、本当の理由は、政界の主流を占めるお年寄りの議員が、とてもそういう公開討論に堪えられない、政策論議すらできない、ということで禁止されたのだ。
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