第一章 論理的な主張の仕方


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●論理的主張の原則―因果関係を詳しく書く

最終更新日:2016.1.3

例文の根拠は「ニューヨーク市では警察職員の増員によって犯罪率が低下した」ですが、いったいどういう仕組みで犯罪率が低下したのでしょうか? 読み手はそこを知りたがっているはずですから、因果関係(原因と結果の関係)を説明すれば説得力が増します。

◆因果関係とは?

因果関係とは原因結果の関係ことです。結論(結果)と根拠(原因)の間の空白を説明しましょう。

もし例文のなかで結論と根拠の因果関係を説明するとしたら次のようになるでしょう。

ニューヨーク市では「割れ窓理論」を応用した「ゼロ・トレランス」政策の実施により治安改善を達成しました。

治安が悪化するまでには次のような経過をたどります。

1.建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も当該地域に対し関心
  を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境を作り出す。
2.ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
3.住民のモラルが低下して、地域の振興、安全確保に協力しなくなる。それが
  さらに環境を悪化させる。
4.凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる。

したがって、治安を回復させるには、
・一見無害であったり、軽微な秩序違反行為でも取り締まる(ごみはきちんと分
 類して捨てるなど)。
・警察職員による徒歩パトロールや交通違反の取り締まりを強化する。
・地域社会は警察職員に協力し、秩序の維持に努力する。

などを行えばよい。

ニューヨーク市の政策は「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策と名付けられています。具体的には、警察に予算を重点配分し、警察職員を5,000人増員して街頭パトロールを強化した他、
・落書き、未成年者の喫煙、無賃乗車、万引き、花火、爆竹、騒音、違法駐車など
 軽犯罪の徹底的な取り締まり。
・ジェイウォーク(歩行者の交通違反)やタクシーの交通違反、飲酒運転の厳罰化。
・路上屋台、ポルノショップの締め出し。
・ホームレスを路上から排除し、保護施設に強制収容して労働を強制する。

これらの政策を行い治安を回復しました。

これで「なぜ警察職員の増員によって犯罪率が低下するのか」を説明できました。次は一見、因果関係があるように見えて実はないという事例をご紹介します。


相関関係はあるけど因果関係はない?

相関関係とは、たとえば二つの事象の一方が変化すれば他方も変化する、というような関係の事です。複数のデータを示してその連動性を説明できればそこには相関関係があると言えます。

例文の場合なら

【警察職員を増員】(事象A)したら、一方で【犯罪率が低下】(事象B)した。

ここには相関関係があると言えます。

ただし相関関係には弱点があります。それは、
1. 原因と結果の仕組みが明らかではないこと。
2. それゆえに、一見すると因果関係があるかのように見えるけど、実はただの偶然にすぎず、因果関係がないことがあること。

なかには、わざと相関関係のグラフなどを見せて、あたかも因果関係があるかのように錯覚させようとする人もいるので注意が必要です。

たとえば次の図は世帯収入と児童の学力の相関関係を示したグラフです。こちらのブログから引用しました。



このグラフからは収入の多い世帯ほど子どもの学力が高いということがわかります。しかし、このグラフ(相関関係)を示しただけでは因果関係があるとは言えません。(もちろん、この時点で因果関係がないという断定もできません) この時点ではどういう理由で世帯収入が高いほど子どもの学力が高いのかは不明なままです。

一般的には親の収入が高いほど教育投資を増やせるからだと言われていますが、一方で収入の高い親ほど教育に対する意識が高かったり、本をよく読む習慣があり、そういった態度が子どもの成長に影響を与えているとも言われています。後者の場合は収入と直接の因果関係があるとは言えません。

次の統計は"相関関係はあるけど因果関係はない統計"です。(ネットのコピペネタから抜粋)

ある食べ物が身体にいいという話はよく聞きますが、アメリカの調査結果によれば、パンは危険な食べ物だということがわかりました。 パン食が増えている日本も他人事ではありません! その驚愕の事実をご紹介します。

1)犯罪者の98%はパンを食べている

2)パンを日常的に食べて育った子供の約半数は、テストが平均点以下である

3)暴力的犯罪の90%は、パンを食べてから24時間以内に起きている

4)パンは中毒症状を引き起こす。被験者に最初はパンと水を与え、後に水だけを 与える実験をすると、2日もしないうちにパンを異常にほしがる

5)新生児にパンを与えると、のどをつまらせて苦しがる

6)18世紀、どの家も各自でパンを焼いていた頃、平均寿命は50歳だった

7)パンを食べるアメリカ人のほとんどは、重大な科学的事実と無意味な統計の区別がつかない

そんなバカな!

上に挙げたデータに因果関係があるか否かは対照実験という検証を行えば判ります。ここではパンと犯罪に因果関係があるかを考えてみましょう。

まず被験者を集めてランダムに二つのグループに分けます。次に一方のグループにだけパンを与え、もう一方のグループにはパンは与えずに替わりのものを与えます。その他の環境は同じにします。その後、パンを与えたグループだけ犯罪率が上昇したらパンと犯罪率には因果関係がある可能性が濃厚です。ただしその差は誤差ではなく、有意差でなければなりません。

★おすすめ外部リンク
高校受験ナビ―合格できる小論文|抽具を織り交ぜて
詭弁術の考察―関連性をこじつける
擬似相関 - Wikipedia
相関関係と因果関係 - Wikipedia
前後即因果の誤謬 - Wikipedia



考えを表現する能力は、
考えそのものと同じくらいに重要である。
−B.バルバ−


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