第一章 論理的な主張の仕方

考えを表現する能力は、考えそのものと同じくらいに重要である。
-B.バルバ-

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■論理的に考えるための補足。
●論理的な思考法1【正しさや善悪は視点(前提)により変化する】

さて、三つの前提の最後の一つに「視点」という概念があります。
誰の視点を前提に置いて考えるかによって、結論の正しさは変わってしまいます。

どういう意味かというと、例えば

地球の視点から見ると地動説真理ですが、
太陽の視点から見ると天動説が真理になります。


実は地動説というものは普遍的な真理ではありません。 このように、正しさは視点」という前提によって変化します。

日常の議論でも、人物の「視点によって正しさや善悪が変化する場合があります。その理由は大きく分けて三つあります。「利害の対立」、「価値観の対立」、「感情の対立」です。一つずつ具体的に説明していきましょう。ちなみに、ここで言う「正しい」とか「善」の定義は、その人物の利害・価値観・感情に合致する考え方のことをいいます。その反対が「悪」です。

1.利害の対立。(利害に関する議論。)
政策議論などがこれに当たります。日常生活の例で考えてみましょう。ある都市で、将来赤字が見込まれる駅の建設計画が持ち上がったとします。この駅が完成したら、市民の税金で赤字を補填しなければなりません。それゆえ、駅の利便性が、赤字の補填と引き換えにするほどには高くない、と考える人は建設に反対します。

その一方で、駅が完成すれば周辺の土地は値上がりします。すると、駅周辺の地主にとっては、赤字を補填するために出ていく金額よりも、土地が値上がりした影響で入ってくる金額のほうが大きくなります。それゆえ、個人の利益を優先したい地主は、駅の建設に賛成します。このように、利害が対立しているとき、視点によって正しさは変化します。

2.価値観の対立。(価値判断を伴なう議論)
価値観とは、「何にどれくらいの価値を置くか」、といういわばその人の中での価値の優先順位のことです。例えば、Aさんは、「人生の中で一番大切なことは、おしいものを食べることだ」、という価値観をもっています。一方でBさんは、「人生の中で一番大切なことは、健康でいることだ」、という価値観をもっています。価値観はその人固有の考え方なので、やはり視点よって正しさは変化します。

ほかにも、「どの映画が一番面白いか?」、「どの画家が最も素晴らしいか。」などの議論も価値判断を伴ないます。

3.感情の対立
同じ事実からでも、その人の立場や性格によって感じ方が変わります。次の例文は、2ちゃんねる(掲示板)にて行われた議論です。

【テレビでの男児の性器の放送は規制すべきか否か】というテーマで。

A氏「子供のおちんちんなら、かわいいから放送してもいいんじゃないの?」
B氏「A氏の意見は大人の視点からの発想ですよ。本人は恥ずかしいと思っているかもしれません。」

このように感情にもとづく善悪も視点によって変化します。

・結論の正しさは、誰にとっての正しさなのか、なぜその人にとっては正しい(あるいは間違っている)と言えるのか、他の人からはどう見えるのか、そこに注目するのは非常に重要です。でないと、独善的な意見を見抜けなかったり、自分が独善的になってしまって同意を得られにくくなります。

【主張A】を思い出してください。このなかでは、

市民の安全のために

が、「視点」に当たります。「警察官を増員する」という結論は、一般市民にとっては良いかもしれませんが、犯罪者にとっては全然良くありませんね。だからこれは利害の対立です。議論を読んだり聞いたりするときは、視点を意識しながら分析してください。議論が噛み合わない場合、視点の違いが無視されていることがよくあります。

・では実際に視点の違いによる対立が想定されるときはどうしたらよいのでしょうか? 簡単にまとめます。

1.利害の対立。
利害を調整した代案を提示する。初めの案に反対した人の「損失の度合い」を減らしてあげる。例えば、原子力発電所の設置に反対している住民に対しては、国からの交付金を支給することで調整する、など。
2.価値観の対立。
相手の価値観に影響を与えるような説得力の強い説明をする。相手の自尊心を傷つけないようにするのがコツ。相手の価値観が誰にも迷惑をかけないのなら無理に変えなくても良い。無理矢理変えようとすると「価値観の押しつけ」になる。
3.感情の対立。
あることについて、自分がどう感じているのかを率直に伝える。「わたし」を主語にして話すのがコツ。

これらの対立の解消に仕方については第六章で詳しく解説しています。興味のある方はご覧ください。

また自分と相手の利害が対立したままになると、相手が権力闘争をしかけてくることがあります。それについては第五章で解説します。

次の例文は、視点によって正しさが変化するジョーク文です。(例により、ネットで拾いました)

【ブッシュ大統領】
訪英したブッシュ大統領は,サッチャー元首相と会談することとなった。
「マダム。あなたの成功の秘訣を是非お伺いしたいですな」
「あら」鉄の女は言った。「それは優秀な人材を集めることかしら」
「もっともですな」ブッシュは深く頷いた。「しかし,どうやって優秀かどうかを見分けるかが難しくはありませんか?」

「簡単なことよ」サッチャーは答えた。「じゃ,やってみるわよ」
彼女は,ブレア首相に電話した。
「こんにちは。トニー。ちょっとした質問に答えてくれるかしら」
「どんな質問でしょうか。マダム」
「あなたのお父上とお母上から生まれた子供で,あなたの兄弟でも姉妹でもない人は誰?」
「はっはっは」ブレア首相は笑った。「それは私です」

ブッシュは,ホワイトハウスに戻ると,さっそく,チェイニー大統領補佐官とラムズフェルド国防長官を呼び出して,例の質問をしてみた。
二人は,しどろもどろとなり,緊急の用事を思い出したと言って,いったん大統領の前を辞した。そして,頭のいいパウエル国務長官を見つけて,例の質問をぶつけてみたのである。
即座にパウエルは「それは私だよ」と答えた。

二人は大統領執務室に戻り,こう言った。
「例のご質問ですが,それはパウエル国務長官ですな」

大統領はひどく落胆した。こんな連中がブレーンでは,次期大統領選は絶望というものではないか。
「どうしようもないな。君たちは」大統領はため息をつきながら言った。
「そんなことも分からないのかね。まったく」
大統領は,二人の愚か者に答えを教えてやることにした。




「答えは,トニー・ブレアだよ」

これは、答える人自身が前提の中に含まれているために結論が変化しているのです。

似たような例文をもう一つ。

【論理学】
ジョーは酒場で論理学の教授と知り合った。
「論理学ってのはどういったもんですか?」
「やって見せましょうか。お宅には芝刈機があります?」
「ありますよ」
「ということは、広い庭があるわけですね?」
「その通り!うちには広い庭があります」
「ということは、一戸建てですね?」
「その通り!一戸建てです」
「ということは、ご家族がいますね?」
「その通り!妻と2人の子供がいます」
「ということは、あなたはホモではないですね?」
「その通り!ホモじゃありません」
「つまりこれが論理学ですよ」
「なるほど!」

深く感心したジョーは、翌日友人のスティーブに言った。
「論理学を教えてやろう。君の家には芝刈機があるか?」
「いや。ないよ」
「ということは、君はホモだな!!」


事実など存在しない。あるのは解釈だけだ。
-F.ニーチェ-

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目次
■論理的に表現することの大切さ。
●言いたい事がうまく伝わらない原因はたいてい書き手の側にある。
●論理的でない主張は、もともと同じ意見をもつ者からしか支持されない。
■論理的に書く技術。
●論理の原則1【結論を書く】
●論理の原則2【結論を支える理由を書く】
●論理の原則3【理由を支える事実を書く】
●論理の原則4【隠れた前提を書く】
●論理の原則5【結論を支える根拠を書く】
●論理の原則6【結論と根拠の繋がりを書く】
●論理の原則7【根拠を支える事実を書く】
●論理の原則8【言葉の定義を詳しく書く】
●論理の原則9【根拠をたどって結論を導く】
■親切な文章の書き方。
●文章の書き方1【丁寧語(です・ます調)で書く】
●文章の書き方2【接続詞を使う】
●文章の書き方3【平易な表現を使う】
●文章の書き方4【文章の冒頭で全体像を見せる】
■Plan-Do-See(プラン・ドゥ・シー)計画・実行・反省。
●計画
●決定権の確保
●実行
●反省
■論理的に考えるための補足。
●論理的な思考法1【正しさや善悪は視点(前提)により変化する】
●論理的な思考法2【正しい知識を披露する事と影響力を与える事は違う】


論理的な主張の仕方についてもっと深く学習されたい方には、小野田博一氏の『論理的に書く方法』をお薦めします。主張の基本原則をやさしく解説しているので、入門書に最適です。

論理的に書かれていない文章が同意を得るのは
もともと同じ意見を持つ者からだけで、
意見の異なる人を説得できるのは、論理的な文章だけです。
(小野田博一 『論理的に書く方法』より)

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