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【論理的思考力と議論】
【上級者の実戦を観察する】
【心理と対話】
【その他】
第二章 論理的な反論の仕方―サブメニュー
【論理的思考法の基礎知識】
【前提の正しさを疑う反論】(論証型の反論)
【新たな前提を加える反論】(主張型の反論)
【推論の形式(前提と結論のつながり方)を疑う反論】
【メンタルの管理】
矛盾とは、同じ事柄を一方では肯定しつつ、もう一方では否定する行為の事です。一つの事柄について肯定と否定を同時にしてしまうのです。これは本来ありえない事なので、矛盾を起こすと主張は崩壊してしまいます。
あるところに盾と矛を売っている商人がいました。
商人は盾を誉めるとこう言った、
商人「私の盾は頑丈でどんなものも突き通さない」
また、矛を誉めるとこう言った、
商人「私の矛は鋭くどんなものでも突き通すのだ」と。
ある客は言った。
客「あなたの矛をあなたの盾に突き通そうとしたらどうなりますか?」
商人は答えられなかった。
解説:
もし矛が盾を突き通すならば、「どんな矛も防ぐ盾」は誤り。
もし突き通せなければ「どんな盾も突き通す矛」は誤り。
したがって、どちらを肯定しても商人の説明はつじつまが合わない。
まず、議論とは「原則として矛盾してはいけないゲームである」というルールを常に憶えておきましょう。これを理解している人と理解していない人とでは天と地ほどの差があります。
矛盾が無い状態の事を、「整合する」、「整合が取れている」、「整合性がある」などとも表現します。
自己矛盾
別名「自家撞着(じかどうちゃく)」
矛盾の中でも特に分かりやすいものに「自己矛盾」があります。自己矛盾とは、同じ発言の中で、前に言った事と後に言った事が一致しないことです。別の言い方をすると、自身の主張が正しいと仮定すると自身の主張が間違っている事になる主張の事です。
自己矛盾の例にはあの有名な
P「唯一絶対の真理は存在しない。はい論破」
S「ならば『唯一絶対の真理は存在しない』という唯一絶対の真理が存在することになるではないか、矛盾する。はい論破」
P「ぐぬぬ」
というのがあります。ほかには
A「ルールを押し付けるな!」
B「なら『ルールを押し付けるな』というルールも押し付けるな」
みたいなの。
A「人の価値観を否定するのは良くないよ」
B「はやくも『人の価値観を否定しても良い』という人の価値観が否定されたわけだが」
A「人が嫌がることを言うのは良くない」
B「その発言によって俺が嫌がっています。なおこの意見に対する反論にも嫌がります」
A「批判は何も生まない」
B「それは『批判は何かを生む』という意見を批判する行為だし、その批判により価値を生み出そうとしている」
A「理論武装は良くない」
B「『理論武装は良くない』という理論武装はいいのか?」
A「ホームページに書いてあることは信用できないってあるホームページに書いてあったぞ!」
B「なんでそれだけは信用してんだよ」
A「常識を疑うのはもはや常識」
B「それは疑わなくていいのか?」
B「これだけは絶対にゆずれないという考えを持っていますか?」
A「あえて持たないようにしている。それだけは絶対にゆずれない」
B「どっちかにしろよ」
A「バカは間違った事しか言わないから意見を言うのをやめるべきだ。私はもう自分がバカだと悟ったから意見を言うのをやめた」
B「じゃあその意見自体も間違ってんじゃね? あと言ってんぞ」
A「アイツは俺のせいにしてる。でも他人のせいにする奴に正しい奴はいない。だから俺のせいじゃない」
B「いいけどお前の頭上にも全部降りかかってるぞ」
A「俺は別」
B「矛盾するだろ」
A「物事を大袈裟に言うなと100万回言っただろ!!」
B「大袈裟!!!」
A「俺は義務を果たさない者の権利は保証してない」
B「それだと、権利を保証する義務を果たしてないAさんの権利も保証しなくて良いことになりますが」
A「俺は別」
B「矛盾するだろ」
A「他人の意見をパクったらダメだぞ!」
B「なんでだよ」
A「先生が『他人の意見をパクってはいけません』って言ってたからだ!」
B「お前も先生からパクってんじゃねえか」
A「ダメなものはダメだ!私はみんなが認めるまで言い続ける!」
B「やっぱり僕も他人の意見をパクるのは良くないと思います」
A「うむ、よろしかろう」
B「ちなみにこの意見はA君からパクりました」
A「ダメだろ!いやイイ!やっぱダメ!イイ!」
B「はっきりしろよ」
B「全国の中学校で、素行の悪い生徒が真面目な生徒の学習を妨害する問題が起きています。対策として加害生徒を特別学級へ移し、被害生徒から分離するとともに、高いスキルの教師が加害生徒の更生に当たる制度の新設を提案します」
A「特別学級には加害生徒を更生させる効果はない。刑務所の出所後の再犯率が高いのがその証拠である。更生させられないならば分離する意味がない。よって制度の新設には反対である」
B「その理屈だと刑務所も廃止すべきだという事になりますが、いいんですか?」
A「刑務所はいいの。だって加害者が外にいたら危ないじゃん」
B「さっきも同じこと言ってやれよ」
A「どんな事があっても決して人を殺してはいけない」
B「死刑や正当防衛など、人を殺しても良い状況はある」
A「なぜ人を殺してはいけないという簡単なことも分からないんだ?」
B「私の反論の矛盾点を指摘する説明がないからです」
A「矛盾点も何も人を殺してはいけないに決まってるだろ」
B「決まっていると言うためには、まず私の主張が正しいと仮定した場合に生じる矛盾を指摘する必要があります。その時点をもって人を殺してはいけないという事が決まるのです。
つまり指摘できない内はまだ決まっていないのです。それにも関わらず先に『決まっている』と断定する行為こそ矛盾しています」
次の例は「AはBである。なおかつ、AはBではない」という形式の矛盾です。
「この花は常に赤いが、常に赤くない」
そのような花は存在できないので矛盾しています。
矛盾した発言からは正しさが失われます。
次の例も同じ形式をしています。
A「ネットの議論で論理学を使うのはズルいからやめるべきです。僕も使いたいのでどうやるのか教えてください」
B「お前だけ使うのかよ」
この主張には次の二つの前提が含まれています。
1.ネットの議論で論理学を使ってはいけない。
2.(僕は)ネットの議論で論理学を使っても良い。
1と2が矛盾するのでどちらかを取り下げる必要があります。
A「お前はさっきから何なんだ! 個人の意見は自由だろ!?」
B「いいけどそれだと『個人の意見は自由ではない』という個人の意見も自由になるぞ」
A「ならば『個人の意見は自由ではない』という意見を除く個人の意見が自由なのだ。ニヤリ」
B「それが正しいと仮定すると、『<個人の意見は自由ではない>という意見を除く個人の意見は自由だ』という意見は自由ではない・・・・という意見を除く個人の意見は自由だ~!という風になって、どんなに足していっても無限ループするから永久に正しくならない。ここで個人の意見が自由である可能性が消える。
ところで、『個人の意見は自由である。なおかつ、個人の意見は自由ではない』なんていう意見は論理的に矛盾しているので、個人の意見は自由か自由でないかの2択しかない。
そして、自由である可能性はすでに消えているから、『個人の意見は自由ではない』が答え」
A「クソが!!」
A「そもそも矛盾点を指摘する行為自体が非建設的だから良くない!」
B「まさにその通りです! 矛盾点を指摘する行為が非建設的であるという現実を認めずに、矛盾点を指摘すべきだと言い張る人は、その時点で自分自身が現実と矛盾したことを言っている事実に気付くべきです!」
A「そうだそうだ!」
B「ガッツリ指摘してんじゃねーか」
A「騙したな!」
B「もう遅い」
A「でも矛盾点を指摘する反論は知的弱者に対する差別だから良くない」※本当にいました。
B「その主張が正しいと仮定すると、その主張に対する反論の矛盾点も指摘してはならないから、無条件に反論を認める結果になる。もちろん反論を認めたら、あなたの主張が間違っているとする考えを受け入れなければならない。
つまり、あなたが正しいと仮定するとあなたが間違っていることになる。ゆえに、あなたが正しい可能性は消えた。
ところで、『矛盾点を指摘するのは良くない。なおかつ、矛盾点を指摘しても良い』なんていう意見は論理的に矛盾するから、良いか良くないかの2択しかない。
しかるに、『良くない』が矛盾である事はすでに分かっている。したがって、自然と『矛盾点を指摘しても良い』の方が正しいという答えが導ける」
A「はいはい、俺は嘘しか言わないよ」
B「その発言が真実であると仮定すると、嘘しか言わないはずなのだから、『俺は嘘しか言わないよ』という真実をゲロってるのは矛盾」
A「お前さっきから矛盾ばっか唱えててキモイな。矛盾にこだわるの止めたほうがいいよ?」
B「それはあなたの個人的感想です。キモイからって直ちに私に矛盾が生じるわけではありません。なぜなら、あなたが正しいと仮定すると、私もあなたの事をキモイと思っているので、あなたも矛盾していることになるからです。
もちろん、どちらも矛盾している状況(止めたほうがいいけど止めないほうがいい状況)も論理的にありえません。ここであなたの論法は自己矛盾を引き起こします」
A「自分に言い聞かせてる感じだね」
B「この文脈における『自分に言い聞かせる』の意味は、『本来は正しくない事を正しいと思い込む』という意味だよね。だとするとまず、なぜ“本来は正しくないのか”を説明する必要があるよね。理由を説明できないのに、『自分に言い聞かせてる感じだね』なんて判断するほうが矛盾だよね」
A「キモw」
意見が“変わる”のは矛盾ではない
矛盾とは「Aである」と「Aではない」を同時に主張する事なので、以前の意見を撤回している場合は矛盾ではありません。
例.
次の発言は矛盾しています。
「1+1=3である。そして1+1=3ではない」
しかし次のA君の発言は矛盾していません。
A君 「さっきは1+1=3だと言ったけど、よく考えたらやっぱり1+1=3ではないと思います」
B君 「お前はさっき1+1=3だと言っていたではないか!さっきの発言と矛盾している!だから1+1=3で間違いない!」
A君は以前の発言を撤回したうえで、新たに反対の意見を言っているので矛盾ではありません。
A「貧乏人は自業自得だから支援しなくていい!」
B「Aの思想は許せない。社会的に抹殺してやる」
・・・後日。
A「先日の自分の発言のせいで仕事を干されて貧乏になりました・・・前の発言は撤回するので支援してください」
B「貧乏人は自業自得だから支援しませんw」
B氏の方が自己矛盾ですよ。
大事なこと
ルール一 矛盾するな。
ルールニ ルール一を忘れるな。
ルール三 ルール一を忘れそうになったらルールニを思い出せ。
みんな!オラにちっとつ元気を分けてくれ!Tweet
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第二章 論理的な反論の仕方―サブメニュー
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