第四章 統計の嘘の見抜き方

嘘には3つの種類がある。 嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ。
− ベンジャミン・ディズレイリ −

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統計の嘘1【比較対象の定義が異なる】

複数の統計を比較するときは、すべての統計の取り方を同じにしなければなりません。次のグラフを見てください。


出典(社会実情データ図録)

この統計では、日本の年間自殺者数は10万人あたり24人で世界第9位ということになっています。ところが、最近2chやブログなどで次のような説が流行しています。

(『日本の自殺者数は年間10万人超え? 』より一部抜粋)
WHOの統計によると、変死として扱われる人のうち、その50%程度は自殺者だという。実際に欧州では変死者数の半数を年間の自殺者数に含めている国が多い。が、日本は含めていない。

総務省の『自殺予防に関する調査結果報告書』の104ページにこんなことが書いてあります。

「自殺は巨大であるが予防できる公衆衛生の問題である」とWHOは述べています。(9月10日 世界自殺予防デー)
変死の原因の約半分は自殺であり、また自殺により毎年約100 万人が死亡しているだけでなく、自殺による経済的損失は数十億ドルとなっているように、自殺は巨大な問題ですが、しかし、大部分は予防できる公衆衛生の問題でもあります、と世界保健機関(WHO)は述べています。

(注)1 平成16 年(2004 年)のWHOの資料による。

もし、上の資料の通りに、日本の自殺者数に変死の半数である7万人を加えると、自殺者数のグラフは次のようになります。



このように、比較する統計データの集計基準(自殺者の定義)が異なると、誤った統計になってしまいます。(もちろん、日本以外の国が変死の半数を自殺にカウントしているとは限りません)

◆ひどい報道では、たった一回の統計調査を根拠に(比較対象なしで)「少年犯罪が増加している」とか、「学力が低下している」などと結論付けることがあるので注意が必要です。これはテレビ局がよく使う方法です。例えば、

(これはテレビ朝日の番組「スマステ」で実際に放送された内容です。)
「東大合格者にアンケートを行ったところ、100人中46人が個室ではなくリビングで勉強をしていた。したがって、リビングで勉強をすると頭が良くなるのだ。」

この調査の結論は正しいとは言えません。なぜなら、東大に不合格になった人々の統計と比較していないからです。

もし、東大に不合格になった人の100人中90人がリビングで勉強をしていたとしたら、個室で勉強をした方が頭が良くなるということになります(因果関係があればですが)。

余談ですが、この主張には隠れた前提、「受験生は、普通個室で勉強するものだ」があります。なぜなら、番組の調査では東大合格者の過半数の54人が個室で勉強をしていたにも関わらず、少数派であるリビング組の方が頭が良いと言っているのですから。しかし、この前提は根拠の無い思い込みです。

◆全くの余談ですが、先ほど登場した日本の自殺者が10万人あたり78人であるというデータは、安易に信じないほうが良いです。こちらが総務省報告書の出典である2004年 9月10日 WHO世界自殺予防デーの文書ですが、このなかのviolent deaths (非業の死)を総務省が変死と誤訳したらしいです。

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目次
■統計のウソを見抜く方法。
●統計のウソ1【比較対象の定義が異なる】
●統計のウソ2【偏った標本】
●統計のウソ3【少ない標本】
●統計のウソ4【誘導的な質問】
●統計のウソ5【空気を読んで答える人】
●統計のウソ6【見栄をはる人】
●統計のウソ7【利害関係のある調査員】
●統計のウソ8【平均には三つの種類がある】
●統計のウソ9【視覚でごまかす】
【動画で学ぶ統計の基礎】
■ニセ科学とインチキ実験を見抜く方法。
●インチキ実験1【対照実験をしない】

統計のウソを見破る方法についてもっと知りたい方には、ダレル・ハフ氏の『統計でウソをつく法』をお薦めします。

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